今回も山田秀三氏の本を紹介します。『東北・アイヌ語地名の研究』は著者である山田氏がご逝去された翌年に刊行されたました。途中まで用意されていた未完成原稿を出版したものになります。
本書は三篇構成となっており第一篇は北海道のアイヌ語地名に関して、第二篇・第三篇は東北地方のアイヌ語地名に関する記述になっています。
ナイやペツなど何故北海道と同じような地名があるのか。東北地方にある不思議な地名は山田氏がアイヌ語調査を行うきっかけになったものです。
ところで、古代東北に朝廷に服属しない蝦夷と呼ばれる人々がいて、征夷大将軍に任命された坂上田村麻呂が蝦夷征討を行った史実は学校の教科書で有名な話です。
山田氏の恩師である金田一博士は、東北蝦夷=アイヌ人であったのではないかという主張をされています。本の帯にも記載されていますが、その弟子の山田氏は東北に残るアイヌ語地名の多さから、東北蝦夷は「アイヌ語族」であったと主張しました。
蝦夷はアイヌ人と言い切った金田一博士に対して、「アイヌ語族」と少しトーンダウンした主張になっています。東北に残るアイヌ語地名だけでは、あくまでもアイヌ語と共通する言語を使う人が東北にいたとしか断定できないと考えるためです。
東北の山奥に行けば行くほどアイヌ語の地名が残っていることに、山田氏は和人に溶け込めた人は別として、馴染めない人々は和人の少ない山地へ移住して同じ生活を行ったのかもしれないと書いています。蛇足ですが、宮崎駿の『もののけ姫』の中に出てくる主人公アシタカは蝦夷の設定です。アシタカの村は本州北部の山奥に隠れ住んでいたということですので、こういった諸説の影響はあったのかもしれません。
東北に存在するアイヌ語系の地名を調査しながら、かつて古代からいた蝦夷のルーツを探る本です。以前紹介した『アイヌ語地名の研究』と合わせて東北地方の地名ルーツや古代蝦夷に興味がある方には楽しい一冊となることでしょう。
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