軍川は大沼南部にある小川ですが、その地名を聞くと戦場ヶ原のように昔この川を境にアイヌと和人の戦いがあったのかと思わせる名ですが、真相は全く違います。『角川日本地名大辞典』によると、
(前略)地名の由来は、文久3年相馬藩の熊川易隆は「箱館行乗」にアイヌ人イクサという者が居住していたことによると記されており、アイヌ語のイクサップ(渡し守の意)によるとする説もある(北海道駅名の起源)
竹内理三編『角川日本地名大辞典 1 北海道 上巻』(角川書店、1987年)105頁
『七飯町史』を見てみると、
往昔土人の居住せし地ににして、其酋長の名をイクサンダと言うに因みて村名を附せしと言う。(中略) 或人言、住吉飯田、又は飯草と言ふ。土人イイキサなる者居住せるによる。
北海道七飯町『七飯町史』(1976年)249-250頁
なんだか、余計にわかりにくくなりました。(苦笑)
イクサ、イクサンダ、イイキサいずれも夷人(アイヌ人)の名前を指しているようです。
ではイクサップはというと、i-kusa-p でイクサップ、それを・越えさせる・もの で渡し守という意味です。「それ」は川ということになりますので、川を越えさせる者=渡し守ということらしいです。
ちょっと気になるのが「i」なんですけど、アイヌ語で「i」は「それ」とか表しますが、ある意味直接言い表すのをためらうときに使います。例えば、一番いい例がイ・オマンテ(熊送り)でしょうか。この「i」は熊を指しているのですが直接的な言及を避けています。日本語でも忌語は沢山あります。
山田秀三氏の著書から、江戸時代にイクルイという狄(えぞ)が青森にいたそうです。青森の狄がアイヌ人であった話はまた機会を追って記したいと思いますが、名前を訳すと、イ・ク・ルイでそれを・飲む・甚だしいという名前になるそうです。※1
やはり忌避した言葉、つまりは「大酒飲み」~子供の頃から酒は飲みませんので大人になってからのあだ名だと思われるそうです。
アイヌ人たちは生まれた子供に対して、悪い神(カムイ)に連れ去られないようにかわいい子であればあるほど汚い名前を付けたといいます。アニメ「ゴールデンカムイ」のヒロインであるアシリパさんも子どもの頃の名前は、エカシ・オトンプイで祖先(長老・祖父等)・の肛門の意です。
その子供の頃の名前を経て「アシリパ」という青年期の通称をもらいました。アシㇼ・パは新しい・時代とかいう意味らしいです。
さて、 そう考えると話は戻って軍川に関するものは、イクサ、イクサンダ、イイキサ 、イクサップもすべて同じ由来の人の名前と考えることが出来そうな感じがします。
成長して渡し守を生業としたアイヌ人がいたのでしょうか。でも、この水量の川に渡し守が必要なのか・・・もうちょっと裏付けが欲しいところです。
※1、山田秀三『アイヌ語地名の研究 第三巻』(草風館、1995年)180-181頁
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