『北海道蝦夷語地名解』檜山郡の最終章です。やはり、檜山郡の地名は整然と並んでいないのでなかなか比定するのが困難でした。そんな中でもこの辺かな?(笑)と思うところを訪れながら、『永田地名解』に記されたアイヌ語地名を探索してみました。
Pit nai ピッ ナイ 石川
pit-nay 石・川で以前取り上げた石崎川のように石がゴロゴロした川を指すと思われます。石崎川は比石館の近くにありpit-us-i で石・多い・ところの意でした。順番的には豊部内川の次に書かれていますので、南へ下り全ての川を見渡しましたが、石の多い川は存在しません。考えられるのは石崎川を示すアイヌ語を二つ採録した可能性です。『永田地名解』の檜山郡のはじまりが石崎川で次が江差という順番が著しく異なっているのも妙に納得してしまいます。さらに調査が必要です。
グーグルマップで石崎川↓
Tapkop タㇷ゚コㇷ゚ 孤山
このタㇷ゚コㇷ゚を探し求めて、東奔西走。『永田地名解』の記載では隣が洲根子岬ですので江差以南、洲根子岬以北の海岸線沿いに存在するだろうと探していました。それらしい山も見当たらず上ノ国まで来て海岸を見ると、北の方に三角山が見えるではありませんか。丁度そこにいた地元の人に「あの山の名前は何ですが?」と尋ねるも「知らん」と一言で返されてしまいました。
時間もあったので目の前の旧笹浪家住宅や上ノ国神社を見学して、その管理人さんに上の写真画像を見せながら、「この名前の山はなんていいますか?」と尋ねましたが、残念ながらわからないとのことでした。地図を持ち出してくれたりして親身になって答えて頂きましてありがとうございます。笹浪家住宅で勝山館ガイダンス施設のチケットもセットで買いましたので夷王山と勝山館ガイダンス施設も見学に向かいました。勝山館ガイダンス施設に行くと窓から先ほどの三角山が真正面に見えているので、施設の管理人さんにあの山はなんていいますか?と尋ねると、「元山」だよと教えてもらいました。
元山は標高522mで笹山、八幡岳とともに江差東方に位置する山です。確かに三角山ではありますが、ちょっと尖りすぎてる感もあり決定的証拠が無く、この大きい山がタㇷ゚コㇷ゚とはにわかに思えません。もっと南に下ってみます。
すると長内川と石崎の間に三角山があります。
グーグルストリートビューはこちら↓
ここか!とも思いましたが、前に余計なうねっているところがあり独立丘とも言えない感じがして何か違うと思ってしまいました。孤山とか丸山、小円丘と『永田地名解』では表現されるのでなんか丸くないので違うような・・・地理的にも南すぎるかなあと。これは、もうギブアップだなと思い車を走らせていたとき、ふと山田秀三氏の著作のタㇷ゚コㇷ゚(たんこぶ山)物語※に書かれている文言を思い出しました。山田氏は東北地方のタㇷ゚コㇷ゚という山名がどこまで南下するのか調査していました。その中で達子森(たっこもり)や田子(たっこ)、田子(たこ・たご)、達居森(たっこもり)、立子山(たつごやま)、辰子山(たつごやま)、竜子山(たつごやま)と語形が崩れているがそれらしい地名が点々としている記されてあります。もしや!と思い厚沢部町に引き返すのでした。 詳しくは太鼓山の由来をご覧ください。
※山田秀三『東北アイヌ語地名の研究』(草風館、1993年)161-171P
Shir’enkoro=Shiri-en-koro シレンコロ 岬
上ノ国神社を通り過ぎ、道の駅もんじゅの前を通って少し行くと洲根子岬が見えてきます。昔は灯台があったのです。地名由来について詳しくは洲根子岬の地名由来をご覧ください。
Osar’ush nai オサルㇱュ ナイ 茅多キ川
o-sar-us-nay でオ・サㇽ・ウㇱ・ナイ→オサルㇱナイで 川尻に・葭・群生している・沢(川)でしょう。永田氏はこの「オ」を無視してますので、知里博士でしたら幽霊アイヌ語と言っているかもしれません。この川を探してみましたが、やはり思い当たるのは一つであろうと思います。石崎川の少し北側に長内川(おさないがわ)があります。そのままアイヌ語訳をすると、o-sat-nay オ・サッ・ナイ で川尻が・乾いている・沢(川)になるのでしょう。
実際、長内川を見てみると、河口にも同じくらいの水の流れがあり、特段乾いているという印象は受けません。むしろ、少し石もあるので、冒頭のピッ・ナイかとも思ってしまうほどです。(汗)
河口付近には葭でしょうか。sarと呼ばれそうな植物が多くあり、オ・サッ・ナイよりもオ・サㇽ・ウㇱ・ナイの方が現状に合っていそうです。
『永田地名解』に記されたOsar’ush nai オサルㇱュ ナイは現在の長内川がもっとも有力であると勝手に結論付けます。(笑)おそらくは、 o-sar-us-nay でオ・サㇽ・ウㇱ・ナイ→オサルㇱナイ →(ウㇱが省略)→オサㇽナイ→(「ㇽ」が和人には聞き取りずらいので)→オサナイとなったのではないでしょうか。