今回の台風19号は各地に甚大な被害を出しましたが、その被害の原因は主に大雨による水害でした。あらためて洪水災害の恐ろしさを目の当たりにしましたが、先人たちは経験を地名として残すことで、我々に災害への警鐘を鳴らしております。アイヌ語地名はその土地の特徴やそこで行われた習慣をよく表すものであるから、その中に水害を想起させる注意するべき名称もあります。その一つがサン・ナイ san-nay→sanay 山から浜へ出る・川 あるいはサンケ・ナイ sanke-nay 山から浜へ出す・川 です。地形的に川そのものが浜へ突き出しているの場合もあるのかもわかりませんが、その中には少なくとも大雨や雪解けによって水がどっと出る(出す)という意味のサン(サンケ)・ナイが含まれているようです。山田秀三氏はその著書の中で、後志の珊内を上げながら
(前略)「サネナイ。本名サンナイ」と書いた。道内にサン・ナイ(浜の方に出る・川)、サンケ・ナイ(浜の方に出す・川)が多いが、何が出るのか、また何を出すのか、読みにくい川名である。釧路の鶴居村のサンゲナイを、土地のアイヌ古老八重九郎翁(故)に聞いたら、平常水が多くないが、雪解けや大雨の時にどっと水がでる。ワッカ・サンゲ・ナイ(水を・出す・川)だと教えられた。
この珊内の地形を見ると、川口から約2.5キロは一本川であるが、そこかわ上は5本の川が半円形に開いていて、降水面積がえらく広い。大雨だとその水が一度に下の一本川に集まって急に水量が増える川だったのではないかと思い、行って聞いた。「この川は奥が深くて急斜面が多く、横の方からも水が集まっていて、大雨だと鉄砲水が出る。雨がやんだのに急に水量が増えたりする」とのことだった。(後略)
山田秀三『北海道の地名』(北海道新聞社 1984年)479頁
北海道に限らず、東北にもアイヌ語由来のサン・ナイが多いようで、有名なところなら三内丸山遺跡のある青森の三内でしょう。いまの沖館川がいわゆるサン・ナイであったらしいのですが、やはり春の雪解けや秋の長雨時期に水害に悩まされた地区だったようです。ちなみにアイヌ語で増水のことをupepe ウペペと云い、paykar-upepe パイカㇽ・ウペペ 春の増水、すなはち、雪解けで川の水が増すことを指し示したようです。